400年続いたボロ市がDXで進化した世田谷のリユース事業
リサイクルという言葉と世田谷は縁が深い。
毎年年末年始に開催されている世田谷ボロ市は、なんと400年以上の歴史を有するフリーマーケットである。東京都の無形民俗文化財にも指定されており、約700もの露店が軒を並べ、4日間で100万人近いひとが集い、楽しむ年中行事だ。
このボロ市の進化型を彷彿とさせるような情報が飛び込んできた。世田谷区は区のリユース事業のパートナーとして地域密着型の掲示板ポータルを運営するジモティーを選んで、2021年から新たな取り組みを始めているというのだ。
これまでの非効率的だったリユース事業
以前から、世田谷区では引き取った家具を修繕し、新たなオーナーに一律料金で引き渡すリユース事業をおこなっていた。基本的には粗大ごみで回収した家具を、簡易クリーニングしたり直したりして、抽選によって、1点1000円で区民に頒布していた。
しかし、この事業修繕要員として人手もかかるし、品物を保管するスペースもかなり必要だ。抽選をしたり、入出金の手間も考えれば、事業というよりはボランティアに近い、つまるところ赤字事業である。
ジモティーのシステムを丸ごと活用
そんななかで、世田谷区が考えたのは、ジモティーが提供しているインターネット上の
プラットフォームで、区のリユース事業を動かす仕組みである。感心するのは、不用品の持ち込みスポットの管理運営の一切を、ジモティーにアウトソーシングしたアイデアだ。
清掃事務所が粗大ごみとして回収する際に、まだ使えるリユース品を持ち込んだり、区民自らが不用品を持ち込めるエコプラザ用賀の運営を丸ごと、ジモティーに提供。ジモティーはそうして集まってくる品物のメンテナンスから、サイトへの掲載、引き渡し、アフターフォローまでを請け負う。
エコロジーを推進するセンターでは、啓蒙教育やイベントなど様々な活動を通して、区民がリユースを身近に感じ、実践できるようになっている。
驚きのリユース率と取り扱い高
そうした官民連携が、生み出す結果としてもっとも驚くのは、試験的運用開始からわずか1年半の間に、リユース率(持ち込まれた品物が引き取られる割合)97%、粗大ごみの226トン減量を成し遂げたという事実だ。
ジモティーとの協働が本格的になった2023年度になってからは、取引するリユース品の数は、26000点余り。売り払い額は1400万円にも上る。抽選方式でおこなっていた頃、1点1000円で売り払った品数はトータルで880点。88万円にしかならなかったことを考えると、インターネットの仕組みを利用した圧倒的なDX効果としか言いようがない。
SDGsが唱えられる昨今、止めるにやめられない、引くに引けない、だが区民サービスとはいえコストばかりが嵩むという悩みを抱えている自治体は少なくないだろうし、世田谷区の先進性を参考にすることで、効果的に解決に向かえる可能性が広がるのではないだろうか。
ショップ登録制度でSDGsを推進
もうひとつSDGsの取り組みとして、世田谷区がチャレンジしているフードロス対策についてご紹介したい。
日本は人口減少に向かっているので、実感が少ないかもしれないが、実は地球全体に目を向けると、止まらない人口の増加で食糧が不足し、飢餓の危機に直面しているといわれている。
各自治体や企業が取り組むフードロス対策だけではそんな背景を一気に解消できるようなソリューションは期待できないまでも、私たち一人一人の生活の中で、感じ方や考え方を少し変えるだけで、大きな一歩になる。
せたがやエコフレンドリーショップ制度
世田谷区ではフードロスの削減やプラスチックごみの削減に積極的に取り組む飲食店や小売店をバックアップするせたがやエコフレンドリーショップの制度を打ち出している。店舗がエコフレンドリーショップとして登録すると、店舗の情報を区のホームページで紹介したり、店舗で使える啓発用のポスターやステッカーを配布して、店舗を訪れる区民が安心して利用できるサポートをおこなっているのだ。
ドギーバッグで『もったいない』を持ち帰り
また、希望する店舗には、残ってしまった料理を持ち帰るための容器=ドギーバックを
区が提供してくれるというのだ。
ドギーバックという言葉を聞きなれないかもしれないが、アメリカの外食産業では何十年も前から、実践されていて、注文して食べきれないときに、「ドギーバック、プリーズ」というと、残り物をテイクアウトさせてくれるサービスがある。持って帰りたいと言うのが、少し気が引けたり恥ずかしいので、「犬にあげるから」というなんともアメリカ人らしい大儀を担っているこのサービス、せたがやエコフレンドリーショップ登録店では堂々と伝えて大丈夫。
世田谷区から提供されている紙製のドギーバックに入れて持ち帰ることができる。
このような生活の中の小さな取り組みが、やがて大きなうねりとなって、無駄の多い「飽」食から、本当に必要な分だけいただく「豊」食の時代へと向かわせるのだろう。
天正6年(1578年)に世田谷の地で始まった楽市(市場税を一切免除して自由な行商販売を認められた市)が今でもボロ市として現代に続いているように、未来に続く世田谷SDGsの道は、区民の生活感に根を這わせて、やがて大樹に育っていく予感を感じさせるものだった。
世田谷パン巡り
パン好き編集部員が“パンの街”を巡ってきました
東京23区で一番パン屋さんが多い世田谷区。毎年10月には世田谷パン祭が行われるほどパン愛あふれる街です。駅前はもちろん、住宅街のこんなところに?という場所にもパン屋さんが。中には世界一になったパン屋さん※もあります。グルテンフリー、全粒粉、オーガニック、米粉、天然酵母を使ったものなど、その店ごとに個性とこだわりが詰まっています。洗練された住宅街やおしゃれな飲食店が多い街・世田谷で愛されるパン。あなたも一度パン巡りしてみませんか。
※パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」で日本人初の総合優勝を果たし世界一となったベーカリー「Comme’N | コム・ン」