祖父の願いを社名にこめ新しい事業にチャレンジ
向井 ─ 今日は有限会社やまぎん本社で、ゴミから水素を創り出すシステムについて伺いたいと思います。西川社長、どうぞよろしくお願いします。
西川 ─ こちらこそ、よろしくお願いします。
向井 ─ 最初に〝やまぎん〟という社名について教えていただけますか。
西川 ─ もともと私の祖父が大阪で始めた飲食店の名前が〝山銀食堂〟だったんです。それを継いでほしいと言われたんですけど、断りまして。
向井 ─ あら…。
西川 ─ で、その後大学4年生の時に起業したんですが、その時祖父の遺言をひとつでも叶えたくて社名を〝やまぎん〟にしたんです。よく明治時代からある会社ですか、なんて言われます。
向井 ─ そんな西川家物語があったんですね。最先端の事業をなさりながらも渋めの社名だなとは思っていました。お名前が残されたこと、お爺ちゃん見てるでしょうね。きっと。
西川 ─ そうですね。祖父が見てくれると嬉しいですね。
繊維との出会いが人との縁を繋げてくれた
向井 ─ 最初はどんな事業を始めたんですか。
西川 ─ 繊維卸売りの会社です。僕は大学浪人中に繊維の会社に入社して、それが繊維との出会いです。大学在学中の4年半、その企業に勤めました。
向井 ─ 起業のきっかけは何だったんですか。
西川 ─ 2000年の8月、急に取引先の大きな企業の社長から独立しないかって言われたんです。で、2週間後に独立しました。展望とか全くなかったんですが。
向井 ─ その社長さんも、西川青年に光るものを見つけていらしたんじゃないですか。
西川 ─ そうかもしれません。すごく信頼してくれて、バックアップもしてくれました。
向井 ─ この青年は絶対裏切らないって。
西川 ─ はい。これお金の話になっちゃうんですけど、初年度売上5億円なんですよ。
向井 ─ すごい才能!
西川 ─ その社長さん、私の年齢より40も上の方だったんですけど、本当に2年間助けてくれたんです。なのに私は、大して仕事しなくても売上できるんだって勘違いしちゃって。
向井 ─ その後は順調だったんですか?
西川 ─ いえ、その後不遇の時代がありまして。実は2年間で借金2000万円。
向井 ─ 借金も才能のうちって言いますけど…。
西川 ─ 単純に金遣いが荒かっただけで。しかもプロポーズした日に振られて。
向井 ─ かなり不遇の時代だったんですね。
西川 ─ 開き直って借金を1年で返すぞと。長距離トラックの運転手やゴミ収集車の仕事をして、1年間で全額返済しました。
向井 ─ バイタリティが半端ない!
西川 ─ 自分が納得したら向かっていく力がすごくある方だと思うんですよ。とりあえず人がやってないことをやっていこうと考えて。起業してからはアパレル生産の委託を受ける事業を始めました。でもただ生産を請け負うのではなく、企画、デザイン、生産全てを丸ごと請け負う体制で。
向井 ─ なるほど。例えば今日の衣装なら、素材、色合い、デザインまですべてを請け負う。
西川 ─ そうです。あとはデザイナーさんに好きに修正してもらえば良いんです。
アパレルが抱える大量廃棄とCO2問題
西川 ─ 洋服って1年間に36億着ぐらい輸入されてるんですよ。でも販売は24億着。
向井 ─ あとの12億着分はどこに…。
西川 ─ 実はそこが問題で、アパレル業界は見ないように見ないようにしてるんですよ。
向井 ─ 12億着も無駄になっていると思うと、ちょっと買うのをためらってしまいそう。
西川 ─ いいえ、逆です。僕はまずそこを変えていきたいっていう思いが強いですね。捨てるからダメではなく、何とかうまく有効活用して楽しく広がる方向へ変えたい。
アパレルってCO2の排出量業界第2位なんですよ。1位が石油で、2位が繊維産業、3位が自動車産業。自動車よりも多いんですよ。このままいけば1位になってしまう。
向井 ─ まさか、そこまでとは!
西川 ─ 繊維業界はまさに今窮地。でもCO2は生産過程で出るものなんです。私たちはこの点を改善しようとすごく努力しました。生産過程で使う電気を作る時に発生するCO2を何とかしようと。ファッションを楽しんでほしい。でもゴミをこれ以上増やすのはやめましょう。っていうのが私たちのやろうとしてることなんです。
廃棄物をエネルギー資源に
西川 ─ 私たちのプロジェクトは、ゴミをエネルギーに変えていこうというものなんです。
向井 ─ ゴミをエネルギーに?
西川 ─ そもそも我慢して続けるサステナブルって何?楽しい?って疑問に思っています。
向井 ─ 確かに「サステナブル=我慢」のイメージはありますよね。
西川 ─ そこを変えたい。上手に回収して循環させればその楽しい気持ちを持続させることができるということを実現したいんです。
向井 ─ SDGsには興味津々なんですけど、どうも我慢する方向へ考えがいきがちで。
西川 ─ 私がサステナブルを始めたのって、2012年、その言葉もSDGsって言葉もなかった頃なんです。ペットボトルから繊維を作っている企業を参考に、自分も開発したんです。でも高くてなかなか売れなくって。
向井 ─ 早すぎて受け入れられなかった…。
西川 ─ その後、廃棄漁網からリサイクルナイロンを開発したんです。他人の真似が嫌いで新しいことに次々挑戦して。全然売れなかったんですけど楽しかったから続けられた。SDGsとかサステナブルもそうじゃないですか。
向井 ─ 前向きですね。諦めない!
西川 ─ 2017年ぐらいから海外に出たんですけど、大損したこともあります。でももう一度海外でチャレンジしてみたらサステナブルっていう概念が当たり前になってた。
向井 ─ 日本はわかっていなかったんですね。
西川 ─ はい、やってたことが海外で認められてものすごく楽しかったです。パリとか、ミラノの展示会に出展したりして。
向井 ─ そこがすごいです。信念がブレない。儲かるとか、売れるとかは二の次にして…。
西川 ─ いや一応考えてます(笑)。でも売れなくてもへこたれないですね。私は海外で仕事してて、日本人を誇りに思ってるんです。日本を前面に出して、日本人にしかできないことをやりたいと考えています。
開発と生産はいつでもダイレクトな飛び込みで
向井 ─ 海外で苦労なさることはないですか。
西川 ─ 開発では通常は商社さんと提携して進めていくんですが、私たちは基本、直接工場に飛び込みです。アメリカのプラント工場の契約も。
向井 ─ そんな大規模なシステムを、ですか。
西川 ─ メールやSNSを駆使して。
向井 ─ 体当たりじゃないですか。
西川 ─ 初めは大変でしたけど、今はもうアメリカプラント会社の副社長とも友達です。手土産持ってとか他人行儀なことをすると友達やめるって言われますよ。
向井 ─ 素敵な関係性ですね。
西川 ─ 大きな決断でもイエス・ノーが早いのが気に入られる理由かもしれないです。ちょっと日本人ぽくないかもしれませんが、日本を牽引してきた偉人はみんな決断と責任感をもって信念を貫いている人たちでした。
向井 ─ 失敗は怖くないですか。
西川 ─ 失敗しても前に進むことが重要だから。コロナの頃とか会社を清算してみんなでお金を分けて休憩しようかとも思いましたけど。仲間の力もあってまた新しくチャレンジ。
その頃、アメリカの政府から感染予防専用のガウンを作れないかという声がかかって。
向井 ─ コロナの際に医療関係者が着ていた…
西川 ─ そうです。あれが1日何億枚も使い捨てで埋め立てられてたんですよ。そこで、洗って繰り返し50回使っても問題ないものを作ってほしいという依頼があったんです。
向井 ─ ウイルスが付着しているガウンを。
西川 ─ はい。高温で洗浄するんですけど、何十回も洗浄して繰り返し使えるものを作ろうと。結局、75回、130回とさらに耐久性のあるものができました。
向井 ─ そこまで極めましたか。
西川 ─ でも特殊なウエアではなく一般の服で作りたくて。結果、できたのがゼロテックスです。安全安心なファッションをみなさんに提供するのが自分たちの使命なのではないかと。
向井 ─ 志を持って次の展開へ進むんですね。
西川 ─ この素材はゴワゴワしないし、普通に洗濯機に入れてくれたらOKです。乾燥機もOKです。
ごみが資源に廃棄物がゼロになる時代を構築
向井 ─ 廃棄物から水素を作り出すというプロジェクトについて教えていただけますか。
西川 ─ はい。原理はものすごく簡単なんですよ。燻製って作ったことありますか?
向井 ─ あります。キャンプのときとか。
西川 ─ 燻製って箱を熱し、中の物を蒸すので、中身は炭素みたいに黒くなりますよね。あれとよく似たことをしてるだけ。燃焼とは違うのでCO2を出しません。
燻製してると白い煙出るじゃないですか。あれって一酸化炭素と水蒸気なんです。要するにCOとH2O。これを分離させて、CO2とH2にする、つまり二酸化炭素と水素にするんです。でもこのシステムが画期的なのは燃やさないということなんです。
向井 ─ 燃やさないとなぜ良いんですか。
西川 ─ 通常、燃やすと大量に出る二酸化炭素を82%も削減できるんです。
向井 ─ そこまで違うんですか。
西川 ─ リサイクルってペットボトルとかトレーとか石油由来のものばかり。だから僕らは逆にリサイクルがしにくいもの、できない部分を頑張ろうと考えた。それが繊維製品なんです。洋服って綿とか化繊とかゴムとかいっぱい混ざってて分けられないんですよ。
向井 ─ 考えてみれば、そうですね。
西川 ─ で気づいたのが、これほとんどの廃棄物、家庭ごみでもできるんじゃないかと。
ゴミが利益を生む新しい社会へ
西川 ─ 今、ゴミの処分はお金がかかる一方です。でもそれではサステナブルじゃない。僕らのシステムは利益が出るように、利用した人にメリットがあるような造りなんです。
向井 ─ 夢のようなシステムですね。
西川 ─ 廃棄物ではなく、リサイクル品。家庭ゴミリサイクルです。面白くないですか。
向井 ─ 燻製できるものならすべて可能という。
西川 ─ だからゴミの日はリサイクルの日です。
さらに水素から発電していけば、地方自治体などは収入に替えられるんですよ。実際の利益を上げると住民サービスに還元されます。
向井 ─ これまで煙になっていたものがクリーンになりエネルギーになり、利益まで出ると。
西川 ─ 大体1人あたり1週間に5㎏ぐらいのゴミが出て、それが約1日分の電気にできる。
向井 ─ ゴミが電気に生まれ変わる!
西川 ─ 電気代が13%ぐらい下がるんですよ。
向井 ─ 嬉しいです。電気代大変ですから。
西川 ─ ゴミが資源になる、電気代が安くなる、そういう有益な部分があって持続可能な社会は回っていくんだと思うんですよね。
向井 ─ SDGsは我慢じゃないんですね。
マンションが抱える課題にも活用
向井 ─ マンションは今、積立金や修繕費などが重荷になってしまいがちですよね。でももしゴミを資源にできたら…
西川 ─ そうなんです。私たちのバイオテックワークスエイチツーのシステムを活用すればゴミが資源に変わる。たとえばどこかの部屋が引っ越すたびに捨てられている壁紙なんかが修繕費の補填とかになるんです。
向井 ─ 処分するのにお金がかかっていたものたちですよね。修理費や管理費の負担に溜息をついていたみなさん、これは朗報ですよ。
西川 ─ そこからさらに環境貢献の意識が芽生えればうれしいですね。そうそう、私たちのプラントから出た最後の処理くずはコンクリートの砂の代わりになるんですよ。
向井 ─ マンションってコンクリートを大量に使いますよね。
西川 ─ 最後の最後まで全部、何も無駄にしない、無駄にならないことが重要なんです。でももう一つ重要なのは無理しないということ。
向井 ─ リサイクルには頑張って取り組むべきというイメージがありましたが、無理せず楽しめるのならもっと社会に広がりますね。
西川 ─ 我慢でサステナブルは続かないです。
ただ、これから洋服を買う時、服の行く末を楽しんで見守ってもらえれば嬉しいですね。
向井 ─ 本日はSDGsについて夢あふれるお話をありがとうございました。
▼西川社長からENTLINK読者へメッセージ
インタビューを終えて これまで何気なく楽しんできたファッション。一つの繊維が生まれデザインが施され、ウエアとなって私たちの手元に届き、役目を終えたら誰かに譲るか処分して—ジ・エンドだと思っていました。でも、今回西川社長のお話を伺い、そこで物語を終わらせてはならないと気づきました。その先まで繋げていくために何ができるかを考えることこそがSDGsなんですね。持続可能な社会は努力して創るもの、サステナブルには我慢が必要と、いつの間にか思い込んでいたのかも。何とかしなければと考えつつも、社会の仕組みが変わらなければなかなか実現しないだろうな…とどこか他人任せになっていました。 西川社長は自分で何とかしようと動き出す方。それも心から楽しそうに。地球に生きる人々にファッションや暮らしをずっと楽しみ続けてもらいたいという鮮やかなビジョンがブレることはありません。無理は禁物、我慢は続かない。未来の光は「楽しむ」のその先に射しているんですね。 ファッションでオシャレを満喫して。でも使い終わって手放すときがきたら、物語を終わらせてしまわないよう資源になる道へ繋げてくださいね。そのほうがもっとハッピーでしょと、教えていただいたひとときでした。 |
西川明秀 PROFILE
有限会社やまぎん 代表取締役
株式会社BIOTECHWORKS-H2 代表取締役
BIOTECHWORKS-H2 Inc(アメリカ法人) CEO
Aki-Nishikawa-Consulting合同会社 CEO
2000年 Yamagin inc. 創業。OEM、生地開発など多岐に渡りアパレル業界に携わる。アパレルの抱える環境問題対策や新たなビジネスモデルの構築など常にチャレンジをし続けるトータルプロデューサー。
趣味:ゴルフ/釣り/ふらっと旅に出ること
日課:朝5時に飼い猫にご飯をあげること
子どもの頃の座右の銘:生生発展(絶えず活動しながら発展すること)
向井亜紀 PROFILE
テレビ・ラジオなど幅広く活躍。1994年に元格闘家の髙田延彦氏と結婚。髙田氏とともに全国各地で親子向けの無料体育教室「髙田道場ダイヤモンドキッズカレッジ」を行い、のべ2万人以上の子どもたちとふれ合っている。またアフリカへ古着を送る活動、ゴミを出さない美味しい食生活などSDGsを実践している。