深刻な日本人の魚離れ
日本では魚の消費量が年々減少しています。2011年には肉の消費量と魚の消費量が逆転し、お肉の方が多く食べられるようになりました。では日本人が魚をキライになってしまったのかというと、そうでもないようです。お寿司は人気メニューの上位に常にランキン
グされています。子供たちにとっても唐揚げ・ハンバーグ・焼肉・カレーライスと並ぶ人気メニューです。街中でたくさんの回転ずしや宅配すしチェーンを目にすることを考えるとそれもうなずけます。
消費量が減少している最たる原因としてあげられるのが﹃調理が面倒﹄だからでしょう。うろこを取ったり、内臓を出したりと下ごしらえが手間です。三枚におろせない人も多いでしょうし、処理済みの切り身で購入しても早めに調理しなければすぐに傷んでしまいま
す。
この他に燃料代の高騰がそのまま流通価格に反映されるのも原因のひとつと言えるでしょう。
『SUSHI』は世界語
和食が健康食として海外で人気が出てからずいぶん経ちます。今では世界各国に和食のレストランがあり、その数は令和5年に18
万7千店、2年で約2割増加しています。特にお鮨は「SUSHI」として通用するほ
どグローバルな食べ物になりました。*(農林水産庁)それだけに魚介類の乱獲が問題になっています。
世界で急増している魚介類の消費量
日本とは逆に世界の海産物の消費は右肩上がりに増加。過去50年間で約2倍に増加しています。特に新興国を中心に消費量が急増、過去50年間で中国では約9倍、インドネシアでは約4倍に増えています。原因として考えられるのは主に2つです。
•世界人口の増加
•健康志向の広がりで魚を食べる人が増加
世界の総人口は2022年に80億人に到達し、過去50年間で2倍以上に増加しました。さらに2030年には85億人へ、2050年には97
億人まで増加すると予測されています。
豊かな海の生態系の崩壊
海が抱える問題も深刻です。地球温暖化の影響による海水温の上昇は、海の生態系を壊しており、このまま温暖化が進むと海の食物連鎖が崩れる可能性が大です。植物プランクトンを動物プランクトンが栄養とし、それをイワシなどの小魚が食べる─小魚をマグロなどの大型の魚が食べ、その死骸が海中微生物になり、やがて植物プランクトンのエネルギーとなる。この食物連鎖が危機を迎えていて、私たちにも大きな影響を与えつつあります。もちろん地球温暖化や海洋汚染が原因となっているので、私たち自身がもたらした問題でもあります。
今、海と水産物を守るために私たちにできることとは何でしょうか。
課題解決に挑戦する企業がある
日本には技術の力、あるいはマンパワー、画期的なシステムの発明により海の課題に挑む企業や団体がたくさんあります。長年の研究や努力により、徐々にその力が大きく漁業を変えようとしています。今回はその中から3つの企業の取組をご紹介します。
未利用魚を食卓へ株式会社ベンナーズ ― 「フィシュル!」
福岡発信の水産加工企業「株式会社ベンナーズ」では、処分されていた未利用魚を独自の手法とカタチで全国へ届けるサブスクサービス「フィシュル!」を展開しています。代表の井口剛志さんにサービスの詳細をお聞きしました。
─未利用魚とはどんな魚でしょう
形が悪かったり、少し傷があったり、十分な水揚げがなかったり、そんな理由で行き場を失った、もったいないお魚のことです。
─そういった魚は多いのですか?
ある漁師さんの話ではなんと9割もの魚が食用に回せない日もあるとのことです。全国の割合で言えば総水揚げ量442万トンのうち約35%の155万トン。東京ドーム約1.3杯分にもなるんです。
─そんなに!もったいないですね
─フィシュル!で扱う魚の量はどれ位ですか?
累計で307トンを達成しました*
*2024年8月現在
─どんな形で届けられるのでしょうか
フィシュル!では未利用魚はじめ、その月に獲れたお魚を、それぞれの味を最大限引き出す味付けを施してから、冷凍でご家庭にお届けいたします。
─冷凍のお魚って解凍すると風味が落ちるイメージがありますが…
フィシュル!では手作業で丁寧に捌いて味付けをした後、マイナス30℃の特殊なプロトン凍結システムで瞬間凍結。捌きたての美味しさを味わっていただけます。
─生でもいただけるんですか?
フィシュル!の魚は生食用と加熱用があります。生食用は解凍後そのまますぐに食べていただけます。
─味付けはどんなものがあるんですか?
たとえば煮切り醤油漬け。解凍してからご飯に乗せ薬味を添えれば、漬け丼のできあがり。他にもハーブオイルマリネや昆布〆、魚醤ガーリックやピリ辛ごま担々など。毎日飽きずに楽しんでいただけるよう和・洋・中バラエティ豊富に40種類以上もの味付けを揃えています。
─手間いらずで美味しいと
忙しい毎日でも、手軽においしい魚を食べてほしいという信念で、プロのシェフの力も借りて独自にメニュー開発をしています。
─井口代表は最初から漁業に関係する事業を目指していたんですか?
祖父母も父も水産業に従事していました。私自身、海に育てられたと言っても過言ではありません。だから水産業界の斜陽を何とかしたかったんです。大学ではアントレナーシップを専攻、起業や創業などを学び、卒業後すぐにベンナーズを起ち上げました。
─どんな点にこだわっているのでしょうか
私たちの理念は・作り手よし・使い手よし・社会よしというもの。未利用魚の活用を通して漁業関係者のみなさんの暮らしも豊かになり、消費者のみなさんの生活も豊かになり、フードロス削減というSDGsへの貢献も果たせると信じています。
─今後の展望を教えてください
今後は個人の方だけでなく、外食産業や小売業などの企業ともネットワークを構築していく予定です。今年4月には京都に直営の〝玄海丼〟1号店を出店、インバウンド需要が高まっています。これからも視野を広く持ち、水産業界全体を盛り上げていきたいと考えています。
表毎日の食卓をちょっと豪華に海のごちそうを楽しむサブスク旬に出会えるお魚ごはんの定期便「フィシュル!」 |
漁業の課題をDXで解決 ― 「三陸とれたて市場」
全く新しいアプローチで漁業の課題をクリア。世界市場で活躍する企業へと成長する企業があります。それが「三陸とれたて市場」代表の八木健一郎氏にお話を伺いました。
東日本大震災からの復活
─元々は静岡出身でいらっしゃるとか?
大学の専門課程進級に伴い、岩手に移住してから既に四半世紀、三陸住まいですね(笑)。
─東日本大震災の時も三陸に?
津波で社屋も何もかもすべて流されました。でも言い方は不適切ですが、全部が壊れたことで、三陸の漁業水産業を白紙から再設計する千載一遇のチャンスに恵まれたと思います。失ったのは物的資源だけ。震災前、顧客から寄せられた各種要望を反映させて力強く生まれ変わる、最初で最後の機会だったなと。
─その機会とはどんなものですか?
三陸の海は暖流と寒流がぶつかる世界を代表する好漁場で、漁獲される魚種は300に迫るほど。まさに湯水のごとく魚が獲れたので皆が忙しい。船に積めるだけ魚を積んで魚市場の競り場は賑わい、中央市場へ向かう多くの車列が風物詩のような浜。でも漁獲量は年々減少、魚離れからか魚価も右肩下がり。量から質へ、魚売りからサービスの提供へと、当社もその役割を時代に即して変えていかなければ生き残れない状況でした。
─根本から変えていく挑戦だったんですね
被災前は鮮度にこだわり、水揚げ当日全量出荷をポリシーとして生魚の販売を行っていたのですが、包丁を持つ家庭はもはや少なく、魚のさばき方も判らず、生ゴミの処分にも困る状況が都市部では既に一般化していました。それを産地では《弛んでいる!》とか好き勝手言っていたのが津波前。でも、よくよく考えると《産地側こそ弛んでいた》のです。
時代の要求に応える産地とは
魚食離れの本質は、魚嫌いが増えたのではなく、肉類に比較して「魚介」は扱いが面倒過ぎることに消費衰退の要因が有るのは確実。魚を便利な素材として、品質そのままに生まれ変わらせることを時代が求めていたのです。よって、品質劣化が著しい鮮魚での流通に見切りを付け、最新の精密凍結技術CASを活用した「冷凍」での価値創りに挑みました。
こだわりの鮮魚販売をしていた身であるからこそ、冷凍でそれに負けない品質に仕上がるまでに8年もの期間を要しましたが、お客さまからの要望を最大限反映させた便利で高品質な新しい魚介がようやく完成しました。
未利用魚を魅力あふれるグルメへ
鮮魚であれば、魚は獲って3日が勝負。だからメジャーな魚種以外、魚屋は扱いたがらない。
直ぐ痛むから出荷できないとびっきり美味しい魚、量がまとまらないので流通に乗せられない地魚。捌くのが手間だから売れないという魚も非常に多くあります。
冷凍庫から取り出して流水解凍僅か3分、いつでもどこでも獲れたての鮮度をお楽しみ頂ける「盛るだけお造り・天然旬凍」の開発を通して、このような地魚も積極的に商品へとラインナップすることが可能となり、産地でしか味わえない多様な魚介を、お客さまの口元までお届けできるようになりました。
傷みやすいことから鮮魚流通では扱えなかった「エイの肝」が、フォアグラを凌ぐ美味として、高級飲食店で大人気となっていたりします。
DXが支える新漁業、資源価値の最大化
多様な魚種が入り乱れる三陸海岸の魚介資源を正確に把握するため、漁船に搭載された漁撈機器(魚探・潮流計・GPS等)からの情報をサーバーにリアルタイムで伝送しており、水揚げ予測システムとして活かされています。また、お客さまの購入履歴等からより好まれる商品形態の分析も進めるなど、川上・川下の可視化による魚介流通の円滑化が加速します。
漁業の構図を丸ごと変えるパラダイムシフト
─今後についてお聞かせください
三陸で水揚げされる多様な魚介は、産地で迅速に下処理が施され、刺身クオリティで鮮度封印された後、海を渡り世界各国のミシュラン店舗にまで送り届けられています。漁業にも〝狩猟採集時代〟から〝農耕時代〟が到来。時差も言語も越えて、産地とキッチンがシームレスに繋がる品質づくりが本格化し、新しい魚の扱い方が、広がりを見せています。
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世界三大漁場いわて三陸海岸の恵を原料から鍛えてお届けふるさと納税でもお取扱い三陸とれたて市場 |
サステナブルな水産業のために ― 「フィッシャーマン・ジャパン」
海の未来のためにできることとは?そんな課題に様々な角度から取り組む団体があります。それがフィッシャーマン・ジャパン。海で働く人、海を大切にする人、魚を売る人、食べる人─それぞれが豊かになる明日のためにその活動を広げています。今回はフィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの村上氏と鎌田氏に活動の一端についてお話を伺いました。
─今、日本の水産業にとって課題とは何でしょう
課題というと色々あるので、私たちフィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの活動のお話をさせていただきますね。
─お願いします
私たちの活動はみなさんにサステナブルシーフードを知ってもらって、広めていくというものです。
─サステナブルシーフードというのはどんなものですか
簡単に言えば、環境や社会に配慮し、持続可能な漁法で獲られたり、育てられた水産物のことです。
─それはどのようにして知ることができるんですか
目安の一つにMSC 認証と言われる国際基準をクリアした認証マークがあります。どこでだれが獲って、どのように運ばれてきたか…などのトレーサビリティも確立されている、〝天然〟の水産物に認証されるマーク。スーパーなどでもそのシールを目にすることができます。
─スーパーで?
はい。全国のイオンなどでお取扱いいただいています。もちろんこのマークがなくても、環境に配慮した形で獲った水産物はたくさんあります。ただ消費者のみなさんに選んでいただく目安としてマークはわかりやすいのではないでしょうか。養殖の場合はASC認証マークです。
─認証マークは世界で通用するものなんですか
世界で言えばノルウェーや北米では普及していて、スーパーでも認証マークのついた水産物が数多く並んでいます。ただ、日本ではまだ認知が進んでいないのが現状です。
─消費者のみなさんに知っていただくのも大変なのでは?
そうですね。生産者から消費者までみんなでコストを負担することで、海洋環境を良くすることができるということを私たちが広めていきたいと思っています。
─価格の問題は大きいですね
どうしたらサステナブルシーフードの価値をわかっていただけるか、選んでいただけるかを日々考えています。理想は、消費者が『おいしそう』と思って選んだものが、結果的にサステナブルシーフードだったという状況です。つまり、意識せずに選んだものが環境に良いものだった、 その社会が目指すべきゴールです。まずは、生産者、流通・販売業者、そして消費者の皆さんに広め、価値を感じてもらうことが私たちの役割だと思っています。
─私たちにできることはありますか
お近くのスーパーなどのご意見箱に〝認証マークのついたお魚がほしいです〟などのリクエストをしていただけるとうれしいですね。消費者の声が届けば、きっとお店も応えてくれると思います。小さな行動を積み重ねることで大きな変化がうまれます。一緒に豊かな海を次世代に繋いでいきましょう!
ふぃっしゃーまん亭は未来をつくる交流の場
フィッシャーマン・ジャパンは仙台空港2F に、三陸の牡蠣と海鮮丼を楽しめるお店『ふぃっしゃーまん亭』をオープンしました。
このお店では手軽にサステナブルシーフードを食べることができます。消費者のみなさんと直接お話できる場として期待していて、さらにみなさんの意見を商品開発に活かしたいとも考えています。
漁業の魅力を発信し、水産業界の課題や未来へと挑戦を続ける水産業のしくみを変えるフィッシャーマン・ジャパン |
スーパーに並ぶ魚しか見ない私たちは、獲る姿や、育てている様子を想像することが難しい。それでも日々の食卓は海に繋がっていて、食材の選び方を意識するだけでサステナブルな生活様式にシフトすることができる。 ENTLINK編集部 |