地域をかき混ぜ新しい解決策を生み出す「やお糠床モデル」
大阪府八尾市は、今年4月から半年にわたって開催される『EXPO 2025 大阪・関西万博』の「大阪ヘルスケアパビリオン」に、自治体として唯一出展予定だ。同パビリオンは「REBORN」をテーマに、週替わりで26週かけて展開される。八尾市は「まちこうばのエンターテイメント!~みせるばやおモデル~」として「つくりたくなる、30分。とにかくさわる博」をコンセプトとした展示を、同市の中小企業・町工場計13社と共同で行う予定だ。
今回取材に訪れたのは、八尾市にあるショッピングモール「アリオ八尾」内の『OPENFACTORY CITY YAO(コ・クリエーションスペースぬか床)』。2024年10月に開設されたこのスペースは、万博出展に向けた実証実験や中小企業支援の場となっている。ここでは「やお糠床モデル」を掲げ、いろいろな企業や課題、アイデアを人がかき混ぜ、かき混ざることで新しい解決策を生み出す仕組みづくりを進めている。万博参加企業や団体、スタートアップらが会議室やコワーキングスペースとして利用可能なほか、一部を一般に開放。万博に先駆け、「さわる展示」として出展企業のさまざまなプロダクトを実際に触って楽しむことができる。
例えば、錦城護謨が開発したガラスに見えてもぐにゃりと曲がるシリコーンゴム製の「シリコングラスE1」や、ヤシの木の皮をプレスしたミナミダの「子ども用玩具」など─。藤田金属が展示するのは、取手部分にミズノ製野球バットの不適合材を利用したオリジナルフライパン「SWING PAN」と同社ブランドの「フライパンJIU」。「フライパンJIU」は世界三大デザイン賞の「RedDot Award」「iF designaward」を受賞するなど、八尾発信で世界的に評価されるプロダクトも数多く並ぶ。 そして、大阪・関西万博では、「着想」や「素材」といったテーマごとにこれら13社のプロダクトが混在するかたちで展示予定だ。
「テーマに即して複数の会社を見せることで、八尾市の企業が得意とする共創の力を伝えていきたいのです。 また、ブース全体のコンセプトとして、八尾市は長年〝ものづくりのまち〟であり、ものづくりの楽しさを後世に残していけるような万博展示をめざしたいと考えています。展示場で実際に見て触って、感じることで訪れた人がものづくりをしたくなる。また、そうやってつくったものをレガシーとして残していくことが、この万博で伝えたい事なのです」(八
尾市役所産業政策課課長・後藤伊久乃さん)

錦城護謨が開発したシリコーンゴム製の「シリコングラスE1」

ヤシの木の皮をプレスしたミナミダの「子ども用玩具」

取手部分にミズノ製野球バットの不適合材を利用した藤田金属のオリジナルフライパン「SWING PAN」と「フライパンJIU」
「みせるばやお」で育んだ地域企業とのつながり
八尾市が出展する「まちこうばのエンターテイメント!~みせるばやおモデル~」の始まりは、2017年11月にまで遡る。中小企業を中心とした35社による話し合いを経て、駅前のスペースにイノベーション推進拠点「みせるばやお」が設立され、八尾市と民間企業、また大学や金融機関などが集まる産学官金連携が進むこととなった。 「みせるばやお」内のプロジェクトとして、2020年からは町の工場にフィーチャーしたプロジェクト「FactorISM」も開始。このプロジェクトでは、八尾市に加えて近隣の市を交えて、工場見学やワークショップなどを実施し、24年の参加企業は91社、総来場者は約2万人に上るほどの盛況を見せた。
ほかにも、八尾市では面白法人カヤックが提供するアプリケーション「まちのコイン」を活用。市内でものづくり体験や環境活動などに参加すると、換金性のないコミュニティ通貨「やおやお」が発行され、別の市内スポットで使うなど、流通させることで地域活性や別のSDGs活動へとつなげている。今では「まちのコイン」の取り組みに参加した住民が、馴染みの商店や企業に対して導入を呼びかける姿も見られるという。 市としての万博出展や地場産業新興プロ
ジェクトなど、八尾市は自治体とは思えないスピード感で物事を進めている。その背景には、八尾市が「みせるばやお」というプラットフォームを用意するかたちで長年育んできた地元企業との関係性があると、後藤さんは胸を張る。
「八尾市では民間企業だけでなく、国や金融機関、研究者といったさまざまな人同士の人材交流も盛んです。会議も多くのアイディアが飛び交うほど活発で、いずれも市と地元企業の間に信頼関係があるから実現できています。今回の万博出展は、八尾市がこれまで地元の企業と一緒にやってきた活動を世界の方に知ってもらう絶好の機会だと捉えています」(同)

「OPEN FACTORY CITY YAO(コ・クリエーションスペースぬか床)」ではさまざまな活動の様子が垣間見られる
独自の行動指針「80 アクション」の達成に向けて
「みせるばやお」を筆頭に、八尾市はローカルSDGsとして「80(やお)アクション」を定めている。「80 アクション」とは、SDGsの17の目標と169ターゲットを八尾市独自で翻案し、17の目標と80 のターゲットとして設定し直す試みだ。
17の目標は親しみやすい大阪弁で、アイコンとともにリデザインされている。
「80アクション」について、市担当者の南 昌則さんは次のように説明する。 「2025年大阪・関西万博では、SDGs 達成への貢献をめざして開催されます。この『80アクション』は、万博に向けてSDGs の目標や内容を市民目線で、身近なことに置き換えて、みんなで八尾を良くしていこうとする八尾市ローカルな取組みです。ひとりひとりの小さな行動や様々なつながりを80アクション』として共有することで、万博とその先の未来へつないでいくことを目標に取り組んでいます。市民ひとりひとりの取組みを表現するひとつとして『#わたしの80アクション』宣言を行うことで参画していただいています。」
「80アクション」を掲げるなか、『9 八尾の企業を盛り上げていこ!』のひとつの結実が今回の万博出展でもある。 「今は、万博きっかけで八尾市に来た人がものづくりを楽しめるような体験を、行政と企業が一緒になって考えています。八尾市には社会課題解決型の事業に取り組む会社もたくさんあるので、プラットフォームや専門家、アドバイザーの提供など、総合的なサポート支援を続けていくことで、80アクションを達成できたらと思います」(後藤さん)
「80アクション」の下、地元企業とともに活気づく八尾市。まずは大阪・関西万博のブースを訪れて、八尾市が誇るプロダクトを 〝見てさわり〟 ながら、SDGsに思いを馳せてみてはいかがだろう。

八尾市note 80アクション「OPEN FACTORY CITY YAO」 |