2023.12.27★★★

INTERVIEW インタビュー 暮らす

  • 雑誌掲載

ENTLINK 1号 SPECIAL INTERVIEW マンション×防災

スペシャルインタビュー 向井亜紀×斉田季実治「マンション防災を考える」

  • 地震
  • 猛暑
  • ハザードマップ
  • 共助
  • 防災

関東大震災から100年後の今、考えたい防災とは――
今年の夏は暑かった! 日本はもちろん世界中が沸騰したような年でした。また地震や豪雨、森林火災など
自然災害が世界各地で頻発しています。そんな今、マンション居住者にとっての最適な防災とは何でしょう。
今回はマンション居住者を代表して向井亜紀さんがインタビュー。NHK気象キャスターであり防災士でもある
気象予報士 斉田季実治氏に最新の情報を伺いました。

目次

猛暑・酷暑・熱中症 世界を襲う激甚災害

向井

NHKの気象ニュース、いつも楽しみに拝見しています。

斉田

ありがとうございます。
向井

今日はマンション住民として防災についていろいろ伺わせてください。どうぞよろしくお願いします。

斉田

こちらこそ、よろしくお願いします。
向井

今年の夏は暑かったし長かったですね。
斉田

この夏の日本の平均気温は、1898年に統計を取り始めてから最も高くなりました。東京では真夏日が60日以上も続いて。こんなことは初めてです。
向井

熱帯夜も続いて、夏から秋までかなりバテました。
斉田

 寝苦しい夜も多かったと思います。また、もともと35度以上の猛暑日という言葉はなくて、2007年に正式に作られたんです。40℃以上を酷暑日、最低気温が30℃以上の夜を超熱帯夜と呼ぶ気象会社もでてきています。
向井

その気温って百葉箱で測っているんですか。
斉田

 百葉箱ではないですけど、通風筒と呼ばれる風通しの良い日陰の温度です。
向井

 実際はもっと高いということですね。どうしてこんなに気温が上がっているんでしょうか。
斉田

 今年ならではの自然現象と温暖化の合わせ技だと考えられます。都市化の影響もありますし。
向井

 熱中症で倒れた方もたくさんいらっしゃいました。そういえば斉田さんご自身も以前、熱中症になったことがあるとか。
斉田

子どもの面倒をみるのに必死で、気づくのが遅れました。やはり無理するとかえって迷惑かけるのでダメですね。
向井

ビールで水分補給はNGですよ(笑い)
斉田

ですね。利尿作用があって逆効果なので、反省してます (笑い) 今年は子どもも暑さでプール中止の日が多くありました。
向井

えー!暑いとプール中止なんですか?
斉田

 熱中症になるので。
向井

そうなんですね。知らなかった…。
斉田

異常な高温は日本だけでなく世界中が暑かった。色々被害もありましたし。今、世界は産業革以前の平均気温から+1.5℃の上昇に抑えようと取り組んでいます。
向井

SDGsのひとつですね。
斉田

ある程度気温が上がってしまうと元には戻らなくなってしまう。生き物が住めなくなってしまっては手遅れですから。
向井

 みんなで考えないとならない問題ですね。

ハザードマップキキクル情報は常にアップデートを

向井

 今年は、台風や大雨の被害も多くて大変でした。線状降水帯などの聞きなれない現象も各地で起こりましたし。そもそもゲリラ豪雨とは、どう違うんですか。
斉田

 ゲリラ豪雨は1つの雨雲が急激に発達してザーッと大量の雨が降る。線状降水帯は同じ場所に次々と雨雲が発生して数時間大雨が降り続けるので大きな被害が発生してしまいます。
向井

川が氾濫して浸水してしまう被害も多くありました。
斉田

そうですね。でも川が氾濫しても避難するべき人の多くが、事前に避難できていない。この問題は大きいです。実は同じ地域でも住んでいる場所によって災害リスクは全然違います。
向井

 そうなんですか。
斉田

 だからふだんから自分が住む場所の危険度を知ることが大切なんです。まずはハザードマップで確かめてほしいですね。
向井

 ハザードマップを見ることで、どんなことがわかりますか?
斉田

住んでいる場所にどんな災害の危険があるのかをマップ上でみることができます。地震、洪水、土砂災害、津波などです。あらかじめ自宅や会社などがどんな災害に弱い場所なのかを知ることで、できる備えがあります。
向井

 知ることが防災の第一歩ですね。
斉田

 ハザードマップってよくできてるんですよ。どんどん新しい情報にアップデートされていますし。実は国や自治体は再開発の際、大雨による浸水を防ぐために水を一時的に貯める空間を地下に作ったりしています。防潮堤の高さも上げています。だから最新のマップを確認すると以前は浸水想定エリアだった都庁近辺が今は指定からはずれていたりします。
向井

 常に新しい情報を得ておくことが重要ですね。
斉田

 危険度分布「キキクル」では、危険度が5段階で色分けされて地図上にリアルタイムに示されるため、台風や豪雨の際はぜひ活用してください。危険を通知してくれるアプリもあります。
向井

それは便利。すぐ登録したいです。

斉田

情報ってアップされるだけでは意味がなくて、みなさん一人ひとりが理解して使ってくれることで生きてきます。
向井

 人の心に届かないとダメなんですね。でも難しい漢字が並んでいると、どのくらい危険が迫っているのか実感できないこともありそう…。
斉田

 そう感じる方も多いかもしれませんね。
向井

 斉田さんはいつもクールに話されるじゃないですか。豪雨の時だけは、もっと大げさにアピールしたほうが視聴者に伝わりませんか?
斉田

 確かに報道の仕方も変わってきていますよ。東日本大震災以降、わかりやすく、伝わりやすい言い方に変わってきています。危険な時は「逃げてください!」とかストレートに訴えかけることもあります。
向井

 「今すぐ命を守る行動を!」という表現も聞いたことがあります。
斉田

 知人や親せきなどの声掛けで避難したというケースも多いため、ニュースで伝えるように呼び掛けることもあります。
向井

 私も親せきが多く住む鹿児島に台風が近づくと「命が一番大事だから!」って連絡します。特に高齢者は先祖代々の土地を大事にするあまり逃げ遅れてしまう可能性もあって…。
斉田

 国としては「自分の命は自分で守りましょう」というのが基本スタンスです。
向井

少し冷たいような…?
斉田

 みなさんが適切に避難できるよう可能な限りバックアップするのが国や自治体です。でも結局、何かあった時は自分や身近な人たちで助け合って何とかするしかない。
向井

 東日本大震災の被災地で、あらかじめ具体的に避難方法を決めていた地域が助かっていると伺いました。もし津波が来たら、小学生のAちゃんは保育園のBちゃんの手を引いて、この道を通って裏山へ逃げましょうと、非常に具体的に役割分担までできていたそうです。ふだんからの決め事と訓練が実を結んだ素晴らしい実例ですね。
斉田

 平常時、何もない時にこそ、どこまでリアルに組み立てて決めておけるかが肝心です。
向井

 家族やご近所で話し合っておけると良いですよね。

地震が起きてもマンションでは在宅避難が基本スタンス

向井

 今年は関東大震災から100年という節目の年でもありました。地震について助言をいただけますか。
斉田

 マンションに居住されている場合、耐震性も高いので避難所に行かなくて良い場合が多いと思います。いわゆる在宅避難ですね。
突然ですが、向井さん。マンションの在宅避難で一番大事なことは何だと思いますか?
向井

う~ん、水とか食料とか連絡手段とかですか?
斉田

 一番はトイレなんです。
向井

 トイレ!忘れてました。
斉田

 マンションは命の危険度は低いですが停電のリスクは避けられません。停電=断水という場合が多いでしょう。人間食べなくても数日は生きられますが、トイレは使えないと厳しいですよね。それも1日5回とか。
向井

簡易トイレも家族の人数×5回×7日間分必要ということ…結構な量!日に日に疲れが蓄積する中で、トイレが使えなかったら精神的にも参ってしまいそうです。
斉田

 はい。災害時に大切なのはふだんの生活をいかに維持するか、なんです。だからトイレは大事。そして水や通信のための電気等ももちろん必要ですが、食べ物も大事です。ずっと缶詰ばかりだとどうしても辛くなる。だからカセットコンロもあると良いですね。最近は非常食もおいしくなってきてますから、上手に選べばふだんに近い生活が維持できそうです。
向井

 他に備えておくと良いものを教えてください。
斉田

 市販の防災セット+薬やオムツ、お菓子など、その家々によってカスタマイズすれば良いと思いますよ。甘いものは結構必需品です。
向井

甘いものを分け合うと癒されますね。
斉田

 わが家では毎年、キャンプに非常食を持って行くんです。BBQしながらコンロの使い方や安全性も確かめられますし。終わったらまた新しく非常食を買うようにしてます。
向井

 それは良いですね。気づいたら賞味期限が切れていたという話もよく聞きます。
斉田

 もったいないですからね。これも気軽にできる小さなSDGsです。

ご近所とのほど良い距離がはぐくむ共助力

向井
 これまで「自助」について伺いました「共助」についてもお話しいただけますか。
斉田
マンションなどの集合住宅ではお隣の顔も知らないという方も多いでしょう。
向井
 そうですね。わが家もお隣のこと、あまり知らないです。こんなにも災害の多い国に住んでいる、言ってみれば運命共同体の仲間なのに。
斉田
 いざという時に頼りになるのはやはり隣近所との助け合いです。個人でできることには限界がありますから。
向井
 でも災害の時に突然助け合うっていうのは難しいかもしれません。
斉田
 そのために、ふだんから交流があるのが理想ですね。それも防災訓練だけ、とかだとなかなかコミュニケーションが深まらない。楽しいイベント、お祭りなどとからめた防災訓練ができると続くんじゃないでしょうか。
向井
 避難訓練の後はみんなで焼き肉を食べに行くとか!?
斉田
 子どもたちは喜びそうですね(笑)
向井
 楽しいことを一緒に体験すると仲良くなれそうです。
斉田
 そういったイベントの中心となる管理組合とか町内会は今高齢化が進んでいますよね。もっと若い層が積極的に参加できると良いかもしれない。
向井
 あまり近くなり過ぎると面倒な部分もあって難しいですけれど、ほど良い距離感でコミュニケーションを取り続けられるように努力したいですね。
最後に読者の方に向けたメッセージをお願いできますか。
斉田
わたしたち日本人は自然災害の被害を多く被っています。その一方で、温泉など自然の恩恵もたくさん享受しています。逆にCO2の排出などで自然へ悪影響を与えています。だから災害のリスクを知った上で適切な備えをし、自然と共存することが大切なんだと思います。
天気予報や防災情報は未来を良くするためのもの。日々アップデートする情報を活用して災害時への備えをすることと地球温暖化を抑えること―その2つをぜひ実行していただきたいと思います。そして災害時には情報を生かして適切な行動をとってほしいと願っています。
向井
今日は防災に役立つ情報をたくさん教えていただき、ありがとうございました。

*

インタビューを終えて

 年々多くなっている災害。マンションに住む私たちにできることは何だろう?とあらためて考えました。物の備えはもちろん、人との関わりも大事な防災です。ふだん、お隣とは挨拶程度のお付き合い。でも、いざ命を守るという時に大切なのはご近所とのつながりだと実感しました。いきなり親密になるのは難しくても、共有スペースを利用した交流や、ちょっとした声がけから始めてみたいですね。
 この記事を読まれた方が少しでも防災に興味を持ってくださることを願っています。
 今後このENTLINKという冊子にもマンションコミュニティが災害時に役立った例などを具体的に掲載してきたいと思います。

*

斉田季実治 PROFILE
気象予報士/気象キャスター/防災士
大学で海洋気象学を専攻、在学中に気象予報士資格を取得。報道記者として悲惨な自然災害の現場を数多く取材。災害被害を未然に防ぎたいとの想いから気象の専門家の道へ。民間の気象会社を経てNHKで気象キャスターに。現在はニュースウオッチ9等に出演。連続テレビ小説「おかえりモネ」気象考証を担当。
防災士、一級危機管理士、星空案内人(星のソムリエ)、一般社団法人ABLab宇宙天気プロジェクトマネジャー、NICT宇宙天気ユーザー協議会アウトリーチ分科会長、NPO法人気象キャスターネットワーク理事。

向井亜紀 PROFILE

テレビ・ラジオなど幅広く活躍。1994年に元格闘家の髙田延彦氏と結婚。髙田氏とともに全国各地で親子向けの無料体育教室「髙田道場ダイヤモンドキッズカレッジ」を行い、のべ2万人以上の子どもたちとふれ合っている。またアフリカへ古着を送る活動、ゴミを出さない美味しい食生活などSDGsを実践している。

日頃の防災・災害時に役立つ情報サイト・伝言ダイヤル

防災情報は各自治体HP等にも詳しく掲載されています。お住いの自治体HPを一度チェックしてみてください。

・国土交通省防災ポータル : 国土交通省 防災ポータル (mlit.go.jp)

・国土交通省ハザードマップポータルサイト : ハザードマップポータルサイト (gsi.go.jp)

・気象庁キキクル(危険度分布) : 気象庁 | キキクル(危険度分布) (jma.go.jp)

・災害用伝言ダイヤル : 局番なし「171」録音「1」 再生「2」

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