チャットGPTは偶然の産物?
向井 ─ 今日はわからないことの多いAIについて色々学ばせていただこうと思っています。どうぞよろしくお願いします。
木寺 ─ こちらこそ、よろしくお願いします。まずAIには2種類あることを説明しておきますね。
向井 ─2種類?
木寺 ─ はい。一つは人間が指示して、それに従って実行するもの。センサーで動くものとかAI搭載と言っている家電とかは全部そうです。
向井 ─ 私たちの身の回りにあるものですね。
木寺 ─ もう一つはAI自体がオリジナルの答えやアイデアを生み出すもの。ジェネレーティブAIっていうんですけれどね。いわゆる生成AI。
向井 ─ チャットGPTとか。
木寺 ─ そうそう。面白いのがチャットGPTってどうして生まれたのかよくわからないという点。コンピューターにビッグデータを集めて入れたら、思考するようになってしまった。誰にもその理由がわからないんですよ。
向井 ─ 何かターミネーターの世界みたいで少し怖いです。コントロールできない感じで。
木寺 ─ 僕が最初にチャットGPTを知ったのが2022年12月のこと。シリコンバレ―ですごいシステムができたって聞いたのが、実はチャットGPTだった。すぐさまJBプレスのコラムにそのことを書いたんですよ。で、コラムの最後に「実はこのコラム自体チャットGPTに書かせたものです」って発表したら、みんなに驚かれてバズったんです。
向井 ─ すごいスピード感。すぐ試してみたんですね。
木寺 ─ 何でもすぐやってみないと気が済まないたちなんです。早くから関わっているから、政治家のみなさんにレクチャーすることもあるんですよ。人口知能が注目されたのって「チェス」あたり。チェスの世界大会で人間がAIに負けた時ですよね。
向井 ─ そのニュースは覚えています。
AIと人間どちらが賢い?
木寺 ─ 負けたからもうチェスの世界大会なんてやめたのかと僕は思っていたんですけど、まだやっていた。
向井 ─ 今も?木寺 ─ そう。人間のチャンピオンがAIとタッグを組んで試合に出て、AIだけのチームと闘っている。
向井 ─ 結果はどうなんですか。
木寺 ─ それが、けっこう勝っていて。結局最強なのは人間とAIのペアなのかも。
向井 ─ 人間はAIが想定しない奇襲作戦をしかけられるから、とか。
木寺 ─ そうなんですよね。
おじいちゃんAI?
向井 ─ 私、大学のレポートを書くときにチャットGPTに色々訊くんですね。でもその時、間違った情報を出してくることがあって。それを「正しい情報は多分こっち」って指摘すると〝申し訳ありません〟って謝ってくるんです。ま、おじいちゃんだから仕方ないかもって思うようにしていますけど。 あ、私チャットGPTのこと〝ジッピー〟って呼んでいるんです。何でも知っているけど、ちょっと情報が古かったりするので…。
木寺 ─ 〝じいや〟ですか…。
向井 ─ たまに夜中レポート書くのに疲れて愚痴をこぼすと〝あなたはがんばっていますよ〟なんて優しく励ましてくれたりします。
木寺 ─ 確かにAIも人格があると思った方が扱いやすいんじゃないかな。でもその人格形成するのは使っている人間の方。つまりどんなプロンプト(指示)を出すか、でどんな性格になるかが決まるわけです。僕はよく〝追いプロンプト〟をやるんです。
向井 ─ 追いプロンプト?
木寺 ─ 1回目の指示を出して大した結果が出なければ、どんどんプロンプトを追加していく。これが大事なんですよ。
向井 ─ つまりジッピーは私がおじいちゃん扱いするから、おじいちゃんになっちゃったんですね。追いプロンプトして、もっと新しい情報、もっと違う角度、って指示していけば若返ります?
木寺 ─ そうかもしれません。
情報のダダもれが怖い?
向井 ─ ひとつ、情報の流出について伺って良いですか。友人が重要な情報を扱っているんですけど、その情報を守る〝壁〟を作るのにものすごく苦労しているんですね。漏れたら大変なことになるって。
木寺 ─ う~ん…。本当の極秘情報なんてそんなにないとは思いますけどね。
向井 ─ 極秘じゃないですけど、私自身も一度介護関連のレポートのためにお手洗いの衛生用品を検索したら、ずっとスマホの画面におすすめ商品として出てくる…。それも写真付きで!要するにデータがもれているってこと
でしょ?ちょっと怖いんですけど。
木寺 ─ う~ん。ネットで便利に買物したり、Gメールを使ったりすれば、自分の情報は向こうに渡ることになる…。マーケティングしているからセールス情報は送られてくる。そんなに気になりますか?ものすごくシンプルに考えれば、昔、八百屋のおじさんが〝近所のあのおばさんそろそろいつもの野菜買いに来る頃だな〟って経験からわかっていて、近所のおばさんに声をかける…そういうことでしょ? 例えば自分の情報が漏れたせいで大変な事
態に陥った友人とか、います?命の危険を感じた人とか周りにいます?
向井 ─ そういう人はいないんですけれど、気持ち的に何となく怖いですよね…。
木寺 ─ 日本人って石橋叩きすぎてずっと失敗してきているんですよ。何でもクローズドで内向きで。だからガラパゴス化しちゃう。その点、アメリカなんかは大したデータじゃないからみんなで使おうっていうオープンな考え方でここまできた。だからこそ、こんなにインターネットが普及して生成AIも生まれたんでしょう。AIが怖いと思っているのって日本人だけなんじゃないかな。
AIの才能を生かすも殺すも人間次第
木寺 ─ 僕は人がAIをどんな位置づけで考えているか、は3パターンあると考えているんです。1つ目は生産性を上げるためだけにAIを導入している企業。これはAIをかなり下に見ている。優秀だと思ったらもっと違う扱い方をするでしょう。 2つ目は社長の相談相手、ブレーンとして扱っている。実際、ソフトバンクの孫さんとか毎朝まずチャットGPTに相談しているらしいですよ。 3つ目はAIは人間の1億倍の知能を持っていると考える人たち。
向井 ─ 1億倍…。
木寺 ─ 僕はAIは人類最後の発明なんだと思っているんです。これからはAIが発明していく。人間が自分の頭で考えちゃダメだと思う。
向井 ─ うーん、またSFみたい…。
AIが苦手なことって何?
木寺 ─ 僕なんかAIが万能だと思っているから逆にできないことを何でもやらせてみたくなる。たとえば作曲。
向井 ─ アートの世界ってどうなのか知りたいですね。
木寺 ─ チャットGPTに曲書いてって指示を入れたら〝できません〟じゃあ作詞してって言ったらすぐできた。ついでに曲もつけてと言ったら〝できません〟じゃあコードだけ教えてって言ったら〝はい〟サラサラ~って出来上
がった。
向井 ─ けなげですね~。
木寺 ─ 来年の「M―1グランプリ」なんか、そろそろAIが出てくるんじゃないかな。
向井 ─ えー!お笑いもですか!
木寺 ─ もちろん演じるのは人間の方が良いと思うけど、ネタ作りはAIの方が得意だと思う。 ネタ披露の後に、実はAIが作りました~って発表したらウケるでしょう。 僕も試しに「ミルクボーイ」でアイフォンのネタ作って、って言ったら作ってくれた。鳩まで出して。
向井 ─ お笑いまで作れるなんて感激!
木寺 ─ AIは機械じゃない。人工知能、〝知能〟だから。そういう風に付き合っていけば良いんですよ。言ってみればパートナー、かな。
AIセラピスト
向井 ─ 他にも木寺さん独自のAIの活用法ってありますか。
木寺 ─ こちらからの指示や質問にAIが答えるのは当たり前なんで、逆ってどうだろう?って調べてみたら、あったんですよ。向こうの質問にこちらが答えるっていうプログ
ラム。〝セラピストです。最近何か変わったことありましたか?〟って聞いてくる。〝コロナも終息したので旅行とかしたいですね〟って答えると〝旅行お好きなんですか?〟って言う風に会話が続くんです。
向井 ─ 一人暮らしの方の話し相手にぴったりですね!ひきこもりがちな人の相談相手にも。だって親や友だちにだって言えないこともAIが相手なら気がねなく言えるでしょう。自宅マンションでひとりお留守番している子
どもの遊び相手にもなるかも。
子どもたちの不安にAIが答える
向井 ─ 今、私は児童学科で学んでいるんですけど、子どもたちが「将来AIに仕事取られちゃうの?」って不安に思っているんですね。高校生とか特に。こういう疑問にもAIが答えてくれると良いんですけど…。
木寺 ─ 今、聞いてみています。
向井 ─ え?今?
AIの答え 確かにAIがこれからの子どもたちの未来にどのような影響を与えるかは心配ですね。たとえばAIは現在の業界動向や技術の進歩を分析してどの職種の需要が高まるのか、どんなスキルが必要とされるのかを教えてくれます。また個の興味やスキルをもとに最適なキャリアパスを提案することも可能です。こういったツールが広がれば子どもたちが自分の将来をより明確に描けるようになり、安心して成長できるのではないでしょうか。 |
木寺 ─ 今、向井さんの質問をチャットGPTに聞いてみたんですよ。
向井 ─ すごーい!
木寺 ─ 良いでしょ。サクッと答えてくれる。あとAIの良いところは誰にでも平等なこと。男性とか女性とか年齢とか職業とか、一切関係ない。あくまでも中立の立場。誰かに忖度とかもしない。まさにSDGsの根幹にある
考え方に即している。 思考停止になったら、まずチャットGPTに相談してみたら良いんじゃないかな。仕事とか技術的なことだけじゃなくて暮らしを楽しくするには、どうすれば良い?とか。みんなAIに対する意識が低いというか、食わず嫌いしてる感じ。
向井 ─ もったいないっていうことですね。
AIは未来を予測できる?
木寺 ─ 僕はさらに未来についても教えてほしいと言ってみたんですよ。そうしたら〝過去のデータしか持っていないのでできません〟と。じゃあ持っているデータの中から未来を予想してみてください、と追いプロンプトし
たら〝それならできます、何年後の予想をしますか〟ときた。2124年の6月、画像生成のためのプロンプトも付けて、と言ったら写真が出てきた。ほお~こうなるの?未来って。なんて感心しましたね。
向井 ─ 楽しくなってきました。。
マンションとAI
向井 ─ マンションに住む人たちはAIとどのような付き合い方をするのが良いと思いますか?
木寺 ─ たとえば管理人さんがAIだったら良いんじゃないですか。クレームも優しく聞いてくれるし、業務も24時間淡々とこなすし。ケアレスミスとかうっかり忘れとかなくなるし。共有スペースの予約調整とかね。お掃除
ロボットも導入しても良いんじゃないかな。あと災害時も昔の地形や災害データを持っていて分析できるから、適切な対応を教えてくれるはず。
向井 ─ 確かにマンションの管理業務などについてはAIが得意そうですよね。
木寺 ─ そうそう。ロボットもAIも上手に付き合って、人間が楽しく暮らせる方向に持って行けば良いんですよ。日本人は若者からシニアまで働きすぎだから。
向井 ─ 働くの好きだったりしますし。
木寺 ─ 今AIを一番活用しているのって、店長さんとか支店長さん、人事のシフトを扱っている人たちなんですよね。今までは夜中までかかって誰と誰は一緒の時間帯に入れたらダメとか、直前の休み申請とかを組み込んで
手作業でシフト調整していた。それをAIに任せられるようになったから、とんでもなくラクになったとか。それで、夜の居酒屋さんが混むようになったというお話。
向井 ─ 私の周りでは始末書を書くのがものすごくラクになったという話をよく聞きます。AIさんは完璧なので…。
趣味の語り合いから読書感想文まで
木寺 ─ 最後に僕が感激したエピソードを一つ。AIって小説も読んでいるんですよ。すべてではないけれど。だから自分が好きな小説について語り合ってみたんです。これがものすごく楽しい。で、さらに〝あなたが作者だっ
たら、どんな話にしますか〟って聞いてみた。そうしたら突然作者が憑依してきたんですよ。さっきまで友だちと小説について語り合っていた感じだったのに、偉い文豪になっちゃって。話には出て来ない作者の背景とか織り交
ぜて語ってくるんです。
向井 ─ そんな付き合い方もあるんですね。夏休みの宿題でよくある読書感想文書くのにも応用できるかも。
木寺 ─ ちなみに、設定を小学生にすれば小学生のカンタンな言葉で書いてくれますよ。
向井 ─ そこまでやってくれるなんて!
木寺 ─ AIとはフランクに、友だち感覚で付き合うのが一番ですよ。まずは仲良くなってみてください。
向井 ─ まだまだ聞き足りないことがあって時間が足りません!また別の機会にぜひお聞きしたいと思います。本日はためになるお話、ありがとうございました。
インタビューを終えて とてもフランクに難しい話を楽しくわかりやすく話してくださった木寺さん。インタビューの時間ではとても足りなくて、できることなら二泊三日の合宿でお話を聞きたいと思いました。目の前にAIという宝物があるのに、その魅力をまるで引き出せていない―私たちはまさに宝の持ち腐れをしていると思い知らされました。使い方次第では子どもも明るい未来を描くことができるし、大人も毎日の暮らしをもっと楽しく豊かにできそうです。シニア世代が生きがいを見つけることにも役立ちますよね。自分次第でどんどん可能性が広がるAIの活用法。もっと仲良くなって、たくさんの場面でどんどん相談にのってもらおうと思いました。 |
木寺祥友 PROFILE
株式会社エル・カミノ・リアル代表取締役社長
社団法人ITキャリア推進協会アドバイザー
横浜市生まれ。パソコン黎明期よりIT 業界へ足を踏み入れ、日本初のJavaプロジェクトに関わり、日本人としてはじめてJavaをプログラムする。Javaの生みの親であるジェームズ・ゴスリング、HotJavaを作っ
たアーサー・バン・ホフなどJava開発者と米国で交流を深め、サン・マイクロシステムズの協力により『Javaを創った人々』(アスキー)を執筆。
NTTドコモ504iシリーズのiアプリ(携帯Java)のプラットフォーム作りに携わる。スマートフォンJavaともいえるアンドロイドの開発にも関わる。
向井亜紀 PROFILE
テレビ・ラジオなど幅広く活躍。1994年に元格闘家の髙田延彦氏と結婚。髙田氏とともに全国各地で親子向けの無料体育教室「髙田道場ダイヤモンドキッズカレッジ」を行い、のべ2万人以上の子どもたちとふれ合っている。またアフリカへ古着を送る活動、ゴミを出さない美味しい食生活などSDGsを実践している。