2024.11.08★★★

FEATURE 特集 暮らすSDGs

  • 雑誌掲載
11]住み続けられるまちづくりを

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海抜0メートルの街を共助×公助の力で守る江東区

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海抜0メートルの土地を多く持つ江東区では、災害に備えて独自の施策を実際に稼働させている。官民共同のパブリックスペースの確保や避難所運営サポーターの発足・防災カタログギフトの配布など、積極的な形で区民の生活をバックアップしている。

目次

官民共同で垂直避難の拠点を確保

 近年の雨の降り方は南国のスコールさながら、短時間で恐ろしいばかりの降雨量になっている。地球温暖化の影響と言ってしまえばそれまでだが、雨の量が増えると土砂災害や水害のリスクが高くなる。
 海抜0m地帯という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。
 海に面した場所で満潮時の平均海水面より低いエリアのことを指す。
 東京、名古屋、大阪など大都市圏は江戸時代以降物流の主流であった水路に沿って広がっており、その後近代から現代にかけた大規模な地下水のくみ上げや埋め立て工事などが原因で地盤が低くなっているところが多い。
 東京都は荒川と隅田川に面した5区(江東区・足立区・墨田区・江戸川区・葛飾区)で海抜0m地帯にあたる土地を包含している。
 江東区では民間マンション、町会と協力し水害対策を推進しているというのでお話を伺った。
 江東区では官民共同の施策として、水害時の一時避難先として、建物の共有スペースを活用した垂直避難場所の確保に乗り出した。近隣エリアの居住者を対象に、エレベーターホールや非常階段などのパブリックスペースを開放し、一時的に避難できるように協力を要請するというもの。

 区は民間マンションの管理会社や管理組合と町会の3者で協定を締結した場合、民間マンションに対して、30万円程度の防災備蓄品やピクトグラムの提供を行う。

 「隣に住む人の顔すら知らないような時代背景の中で、マンション住民の協力を求めるのは大変ではないですか」

 住民の居宅を提供するわけではなく、あくまで共用スペースのみではあるものの、全く知らない人が玄関前に避難してくるとなるとプライバシー面でも気になる。


 「はい、やはり管理組合などにリーダーシップを取れる方がいらっしゃるところのほうが話が早いですね。そういう方たちは日ごろから町内会やこどもを通じたイベントや会合、消防団にも積極的に参加されていて、近所の住民の皆さんとのコミュニケーションをとられていることが多いです。」

 多くの自治体がマンションという集合体の実態把握に苦慮しているのは、町内会という組織に無所属の世帯が年々増えていることも要因だ。

 「荒川の堤防が決壊したり、内水氾濫などが発生すると、避難場所にたどり着くより先に浸水し始める可能性があります。その前に一時的に身を寄せる場所があれば、命を守ることができ、安心できるのではないでしょうか。」

 それは確かだが、筆者は2019年の台風19号で多摩川氾濫の際に、マンション1階が床下浸水・停電という被害に遭った経験から疑問に思うことがあった。
 下流の地域では日ごろから町内会活動が盛んで、川があふれる前に足の悪いお年寄りや赤ちゃんのいる家庭を訪ねて、早めの避難を完了させていた。

 しかしわたしの住んでいたエリアでは、地域のつながりが薄く、逃げ遅れた寝たきりの高齢者が亡くなり、停電時は防災放送すら届かずに不安な一夜を過ごした。

個別避難計画の作成

 「地域のどの家に避難介助が必要な人がいるのかについて、すでに江東区では把握されているのですか」

 「災害対策基本法に基づき、高齢者や障害者などの避難行動要支援者名簿は作成しており、災害時に配慮が必要な方の把握はできていますが、要支援者一人ひとりが、どこへ誰と避難するかをあらかじめ定めておく個別避難計画の作成をより進めていくことが課題です」

 そう語る区職員は、防災課に属する若者だ。要配慮者の情報は介護福祉の分野、子育て世帯は保健所や子育て推進の分野、障害者福祉高齢者福祉など、共有したい情報はたくさんあるが、なかなか容易ではない。

避難所運営サポーターの発足

 ただ、江東区では町内会や消防団などの既存のコミュニティのほかに、今年度「避難所運営サポーター」を発足させた。江東区在住の18歳~29歳の方々を対象とした公募制のボランティアである。防災士資格取得費用を全額助成し、日ごろから区が実施する防災訓練や講習会へ参加することで、災害発生時に区内に設置する避難所の設営や様々な活動を手助けする役割を担う。災害が起きる前から必要な人員を確保して、54万人の江東区民を支える共助の精神の実現化である。
 「区内にある企業に勤めている人や大学生を中心に、応募が来ているとのことです。町内会や消防団は高齢化が進んでいて、後継者の確保がままならないなかで、若者を中心に地域の役割を担おうとするひとたちが集まってくると、それはひとつのムーブメントになり、多くの課題解決の一助になる可能性を感じます。」

感震ブレーカーと防災カタログギフトの配布

 また江東区は海抜0m地帯のほかに、地盤が軟らかく首都直下地震が来た時には建物の倒壊などにより、火災の被害が甚大になるエリアも存在する。木造住宅が密集し高齢化も進んでいるため、避難が困難になる火事を発生させない工夫が必要である。

 そこで、火災危険度が高い地域に向けて感震ブレーカーを配付、助成したほか、防災カタログギフトを区内全戸配付するなど、日ごろから区民が「災害」を身近に切実に感じられ、備えていける自助をサポートしている。

休日・夜間も即対応の体制で安心を担保

 わたしたちが取材をさせていただいた部屋は、災害時の本部になる部屋ということだったが、実際に避難が必要な事態になったときに、この部屋に職員の皆さんが来ることができないこともあるのではないかと、少し意地悪な質問をしてみた。江東区の防災意識の本気度が大いに伝わるその回答で本文を締めたい。
 「休日、夜間は課長級以上の管理職が、宿直で区役所に詰めています。いつ災害が起きても対応できるように、即応体制を構築しています。また、防災課の職員は、何があってもすぐに駆けつけられるように、区内在住の職員が多く配属されています。僕たちもそうです。」
 そう言った職員の笑顔に、区民の安心、安全を全力で公助する江東区の頼もしさを感じた。
海抜0メートルの土地を多く持つ江東区では、災害に備えて独自の施策を実際に稼働させている。官民共同のパブリックスペースの確保や避難所運営サポーターの発足・防災カタログギフトの配布など、積極的な形で区民の生活をバックアップしている。

執筆者

ENTLinK+PLUS編集部(編集部)

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