コロナ禍で加速した置き配ニーズと4種類のソリューション
「今、日本では置き配の利用率が7割を超えています。しかし再配達率は依然として約1割。特に東京ではマンションの9割以上がオートロックを採用しており、セキュリティと利便性の両立が課題となっています」
そう語るのは、建築金物メーカーの株式会社シブタニクラビス事業部統括グループリーダーの東浦浩二さんです。近年、Eコマース拡大に伴い宅配便の取扱個数は増加の一途をたどっています。特にコロナ禍では物流量が急増。再配達問題も深刻化し、置き配に注目が集まりました。
「コロナ以降、事業主からの問い合わせが急増し、2022年 月にはショールームを置き関連商品中心にリニューアルしました。特に首都圏では単身世帯が多いこともあり、置き配ニーズが急速に高まっていると感じています」
事業主からの相談内容は主に「セキュリティの担保」「美観」「コスト」の3つ。建築費高騰の中、置き配にどれだけ投資できるかという課題もあるといいます。
そうした需要に応えるべく、シブタニでは現在、マンション向けに4種類の置き配システムを提供しています。中でも導入が進んでいるのが「TebraXD2B」。これは各部屋の宅配ロッカーに日替わり暗証番号式の電子錠を設置するシステムです。配達業者はエントランスの専用機器で業者番号と配送先部屋番号を入力すると、その日の暗証番号が表示され、オートロックと宅配ボックスを開けられます。
置き配のジレンマ―セキュリティと利便性の両立
「マンションの大規模化に伴い、館内物流・館内配送が課題として残されています」と東浦さん。セキュリティの観点から内部構造が複雑化している物件も増えており、配達員がマンション内で混乱するケースも少なくありません。
東日本営業部の芦田英太さんは「都内のマンションではトラックを停める場所がなく、長時間の駐車が難しいという問題もあります。結果、マンション入り口の宅配ロッカーに入れてしまい『不在だったため宅配ボックスに入れました』と報告するドライバーもいて、クレームなどにもつながってしまっているようです」と指摘します。
東浦さんも「宅配ボックスには満杯になる問題や、高齢者や女性が重い荷物を1階の宅配ボックスから自室まで運ぶ負担があるのです」と頷きます。水や米など、重いものを宅配で頼むケースが増えているだけでなく、高齢化が進む中、この「最後の数メートル」の負担をどう軽減するかは重要な課題となっています。
そして何より、置き配の最大の課題は、セキュリティと利便性の両立でしょう。
「オートロックの意味はなんなのか、という根本的な問題です。館内配送を増やせば不特定多数の人がマンション内に入ることになり、セキュリティが低下します。多様な配達業者の増加によって、そもそも『誰がどの業者か分からない』状況も生まれており、バランスをどう取るかが非常に難しくなっています」(東浦さん) 一方で居住者側にも多様なニーズがあります。
「中には部屋の前まで荷物を持ってきて欲しくないという方もいますので、マンション全体で導入したとしても、どこまで使うかは利用者さんが選択できるような仕組みにする必要もあります。」(東浦さん)
多様化する居住者への対応と未来への展望
マンションの居住者もまた、多様化しています。高齢者や外国人居住者が増え、全員が使いこなせるシステムづくりにも苦心しているそうです。「宅配ボックスなどのシステムはスマホアプリの登録が必要ですが、実際のアプリ利用率は10%にも満たないケースもあります。若い人は問題なく使えますが、高齢者など使いこなせない人も多いため、使いやすさとハードルの低さが課題です」
多言語対応も進めており、「Tebrconnect」アプリは5か国語「DERBOX」のアプリは2か国度に対応していますが、実際の使用感にも配慮が必要だといいます。「そもそも居住空間や習慣に違いがある方々にとって、日本人の方向けの説明をただ翻訳するだけでいいのか、まだまだ私たちも検証を重ねていく必要があるでしょう」(東浦さん)
さらに今後の課題として、人手不足の深刻化が挙げられます。
「管理会社も人不足が深刻化しているため、AIを活用したコンシェルジュサービスなど新しい付加価値の創出を考えています。人が減ってもニーズは多様化しているため、今まで以上に幅広い要望に応えられる柔軟性がメーカーにも求められています。昔のようにハードだけでの差別化はもう難しい。柔軟にアップデートが可能で、多様な選択肢を提案できるソフトと、長く使えるハードのバランスで差別化を図っていくことが我々の強みになるはずです」(東浦さん)
「安全を守り、安心を生み、快適を創り出すこと」を企業のミッションとして掲げているシブタニ。一般ユーザーの目線を重視し、さまざまなソリューションを提供し続けることが目標とのこと。
一方で、ユーザーもまた、わがままになりすぎず、さまざまな課題と隣り合わせにある物流やマンションセキュリティについて思いを巡らせ、エシカルに対応していくことが必要なのかもしれません。セキュリティと利便性を両立する置き配ソリューションの進化に頼りながら、より快適な暮らしとは何かを共に考えていくべき時ではないでしょうか。
COMPANY PROFILE 株式会社シブタニ 建築金物メーカーのシブタニは、マンション向け置き配ソリューションの最前線に立つ企業です。Eコマースの拡大とコロナ禍での需要増加を受け、セキュリティと利便性を両立するシステムを提供。多様なニーズに応えるため、4種類の置き配システムを展開し、マンションの課題解決に貢献しています。 |